022542 ランダム
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見習い魔術師

見習い魔術師

     森―Ⅰ 

森―Ⅰ

惑わしの森、入り口。
意志を持つ、生きる森をその内に隠すこの森は、自在にその姿を変える。
どのような者が入り込んでも、知らず知らずのうちに出口に来てしまうのは、その為だ。
――― 森が認めない限りは。
森に認められたもの、もしくは、その深くに隠れる城の住人に招かれた者は、難なく森の内部に入る事が出来る。もっとも、どちらにせよ、森が認めない限り入ることはかな適わないのだが。
この森は、いつとも知れぬ古代の契約を守りつづけている。
知らされている話によると、森の奥の城のかつての住人が、何者からか森を助けたとき、森が恩として、代々その城を受け継ぐ者に忠誠を誓う、という内容だったらしい。
それから数百年経った現在も、森は契約を守りつづけているという。
しかし、城の住人と森が交わした契約は、こんなものではなかったらしい。
もっと重要な、それこそ森の生命を握るような内容だったらしい。
けれど、その内容を知っている者は、今はすでに存在しないとされている。
・・・否、実際には、・・存在・・・しない・と・・・されて・・いるだけだ。
その内容を知るものが居ないのではなく、忘れ去っているのだ。だが、必要なときにはしっかりと思い出せるという。つまりは、忘れ去らされている、ということだ。
森は、それでいいのだと知っている。いや、それ以上は・・・・知られて・は・・・・いけないのだと。
今、森の前に一人の男が立っている。男というよりは、青年というべきか。
その瞳には、まるで懐かしい友に再会したとでもいうような、優しい光を宿している。
服装から、男が旅の者だと分かる。しばらくの間、静かにその森を見つめていたが、不意に口を開いた。
「久しぶりだな、元気だったか?・・・ま、そうに決まってるか」
からかうような口調の割に静かで、力強い声は、まるで話し掛けるように言う。
しかし、ほんの一瞬の沈黙の後、有りえないことが起こった。
『久しぶりとはのぅ。時が経つのは早いものじゃな。相変わらず、生意気な口を利きおってからに』
森からの、優しい返事。
深い、葉が風に擦れ合って奏でる優しい音で、森はその言葉を発した。
「ひでぇなぁ。久しぶりに会って、いきなり言うか?普通・・・」
苦笑する男に、森は再び言葉を紡いだ。
『何、本当の事だろう?まぁ、良い。お前を待つ者も在ろうて。奥へ、進むが良い・・・』
ズ、ズズズ・・・
木々が、その身を動かし、奥へと続く細い道が現れた。
「へへ、サンキュ♪」
男はそう言うと、森の奥へと、ゆっくりと歩いていった。
森が認めた者だけに開かれる、森の客人のための道を・・・。



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